やっぱりいいよね。
この時間のこの教室。
机がちょっと邪魔だけど、私の部屋から比べれば全然広い。
趣味を全うしたい私にとっては最高の場所。
放課後のこの時間なら、
学校にいる数少ない人も部活に行っていて、
教室も、その前の廊下も誰もいない。
というわけで、私、最近はここで"踊って"います。
趣味であり、得意技であるクラシックバレエ。
発表会も寸前に迫って、
家で踊るのでは飽き足らない私は学校で踊っています。
音楽はもちろん鼻歌。衣装は制服。
このパートは右後ろで待機…この小節で前へ…左脚を上げて…。
脚を上げたその時、軸足である右足に激痛が走った。
そのまま上げていた脚は崩れ落ち、その場にうずくまった。
まだ少しじんじんと痛む膝の辺りを揉みながら
それだけでも痛む膝に、顔をしかめた。
なかなか脚の痛みがひかない事にちょっと不安を感じながら、
とにかく、保健室にでも行こうかなと思い
立ち上がろうとすると、またしても右足に激痛が走ったので、
また、床にうずくまってしまった。
「どうしよう…このままじゃ保健室にも行けないや。」
はぁっとため息をつきながらどうすれば良いのかと
その場にうずくまっていると、
床に自分のもの以外の影が自分の影に重なって写った。
「どうしたんだ?」
上から突然降ってきた声に驚いてぱっと顔を上げると
知らない人―しかもきれいな男子生徒―の顔があった。
いきなりのことで何も言わずにきょとんとその顔を見上げていると、
かがみこんでいた彼は背筋を伸ばした。
「何でもないなら帰るが。」
「あ、あの…足、くじいたみたいで…。」
「じゃあ、保健室に行くしかないな。」
そう言い捨てて立ち去ろうとしている
彼の後姿を見ながら声を絞り出した。
「歩けなくなっちゃったみたいなんで…手、貸していただけますか?」
自分でも顔が赤くなっているだろうなと感じながら、
彼のほうを不安そうにじっと見ていた。
彼はしぶしぶといった感じで
立ち去ろうとしていた足を戻して来てくれた。
そして、私の目の前に立つと、
今までポケットの中に突っ込んでいた手を目の前に差し出してきた。
「じゃあ、つかまれ。」
だが、行動とは裏腹に顔には「不機嫌です」とでも
書いてあるかのようにぶすっとしていた。
そんな顔を見たら、その手に捕まってもいいのか
少し疑問に思って、つい言葉にしてしまった。
「ありがとうございます。けど、忙しくないんですか?」
「忙しいからどこかに行くと言ったらお前はどうするんだ。」
「・・・ハイ。」
その強い語調に勝つことなど到底出来ずに
俯きながら短く返事をして手を伸ばした。
彼の手に捕まって何とか立とうとするが、足には激痛が走る。
かなりの痛さに顔をゆがませながらもなんとか立ち上がった。
彼は何も言わずに待っていてくれた。
それから、2人とも口を開かずにゆっくりと歩いていった。
彼はの歩調に合わせる様にスピードを落として
その手を持って、エスコートするように廊下を行った。
そんな時、ついに最大の難関に達した。
保健室に行くには階段を2階分上らなくてはならないのだった。
痛みですっかり忘れていたので階段を前に唖然としてしまった。
彼は私の手をもったままずんずん階段を上っていく。
それにつられて私ものぼろうとした。
しかし、一段目に足をかけたとたん、またしても痛みが走った。
歩いている時とは全然違うその痛みに
耐え切れずにその場にうずくまった。
彼は手が引っ張られるのを感じて、歩みを止めたようだった。
しかし、痛みで周りのことを何も気にすることもできずにいた。
すると突然、自らの体がふわっと上がった。
ぱっと顔を上げると、目の前には彼の顔が広がっていた。
だが、彼は表情一つ変えずに軽々階段を上っていった。
「きゃっ、ちょっと…重いんで…!」
「歩けないんだろ?」
このまま降ろされても足が痛むであろうことは目に見えているので、
何も言わないことで我慢した。
そして、必死で腕を彼に回して目をぎゅっとつむり、しがみついた。
「おい、いつまでしがみついてるつもりだ。」
ぱっと目を開けるとそこはもう保健室の中だった。
それに気付くと、慌てて彼にまいていた腕を後ろにひっこめた。
「すみませんっ。」
そう言って保健室のソファーに腰掛けた。
だが、運悪く先生は席を外していて、保健室には誰もいなかった。
その様子を見て、またしても困り果ててしまった。
しかし、そんな状況など全くお構い無しに、
彼は手当たり次第、棚を漁っていた。
いいのかなと疑問符を浮かべながらも
そんな彼の様子を眺めていた。
すると、彼は包帯とシップをどこかから見つけてきて、
ソファーに座っているの前に膝立ちになり、
テキパキと手当てを始めた。
「どうやったらこうなるんだ?」
「えっと・・・踊ってたの。」
「"踊ってた"?」
「はい、習ってて・・・。へへ。」
自分でもなんでこのこと話してしまってるんだろうと
疑問に思いながら、笑ってしまっているところを
かれはさらりと聞き流していた。
真剣な表情をして膝のあたりに
包帯を巻いているのを上から見ると
今までは気付かなかったが、
彼がかっこいいことに初めて気付かされた。
色の薄い髪、長いまつげ。
これだったら、かなりもててるんだろうなと考えてる
その短い間に手当ては終わっていた。
しかし、いまだに夢見心地なを彼は不機嫌そうに覗き込んだ。
「手当ては終わったぞ。」
「え?あぁ、ありがとうございます!」
そう言ってためらいがちに立ち上がると、
今まであんなに痛んでいた足が
全く痛まなくなっていることに気付いた。
「すっごーい!」
思わず満面の笑みではしゃいでしまった。
「これくらい、俺様には簡単だ。」
「ありがとうございます!あ、えっと、名前は…?」
「自分から名乗るのが筋だと思うが?」
「あ、と言います!で、あなたは…?」
「俺の名前を知らない奴がこの学校にいるとはな。」
「?」
「跡部景吾だ。」
その言葉を聞いたは少し考えこんだ。
と、その途端、頭の上には「!」マークがとんだ。
「あっ、あのテニス部の部長さん!」
ぽんと手を叩いて満足げに言った。
そして1人でうんうんと頷いていた。
「女子の間であんなに噂になるだけあるね~。
うん、やっぱりかっこいいですね。」
さらっと顔を赤らめたりせずに
面と向かって言う彼女に正直彼は戸惑っていた。
「それに、この怪我もすぐ治してくれたし。」
その時、不意にもう1回「!」マークがの頭の上に浮かんだ。
ポケットをがさがさと探してみると2枚の紙切れを取り出した。
「これ、発表会のチケット、余ってるんですけど、興味ない?」
にこにこと笑いながら2枚のチケットをひらひらさせている
彼女にさすがの彼も目を白黒させた。
「やっぱりオトコノコはこんなの興味ないよね。」
「来て欲しいのか?」
「…うん。まぁ…。」
「じゃあ、行ってやるよ。」
「本当っ!?」
そのまま彼女はそこで舞い踊りそうな雰囲気だった。
事実、ぴょんぴょん飛び跳ねながら踊っていたが。
彼は受け取ったそのチケットを見てみると、
思いもがけないことが書かれてあった。
「…おい、お前が主演なのか?」
「え?うん、そうだけど…あっ、引き止めちゃってごめんなさい!
ぜひ、来て下さいね。」
嬉しそうにスキップで保健室を後にする彼女に
跡部は苦笑していた。
「面白そうじゃねぇか。」
~・後書き・~
偽者跡部お許し下さいぃぃー><
実はこの行動、自分がしてることあるんですよね。
けど、うまく書けなかったような・・・。
ちなみに抱え上げられた時、どんな体勢だったかは
ご想像にお任せいたします。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました~。
'05/09/17