やはり、尸魂界のこの雰囲気は落ち着くな…

そんな悠長なことを考えていた。
それも彼女が長期現世任務から帰ってきたばかりだからだろう。

久し振りに吸った尸魂界の空気に彼女は微笑んでいた。

その時、ふいに聞こえる低い声。
聞き慣れたその声は、耳に心地良く響いてくる。


「…ようやく、帰ってきたのだな。」


振り返るとそこには久し振りの彼の顔。

今までどんなに目の前の風景が懐かしくとも
浮かんでこなかった満面の笑みを浮かべて、
彼の方へと走って行った。



知られぬ日





「…それでね、クリスマスってイベント知ってた?」

「知らぬ。」


現世に長いこといたお陰で得た知識を彼に教える。
彼は聞いてはいるが、あまり興味はないよう。

それでも座っている彼の後ろに回りこみながら
彼女は言葉を続ける。


「現世での神様のお誕生日を皆がお祝いするらしいの。」


後ろからそっと彼の首に腕を巻きつける。
僅かに細められた彼女の目は現世での記憶に向けられていた。

だが、それを彼が見ていることはなかった。

ここは朽木邸の彼の私室なので、
誰の目を気にする必要も無い。

彼は自らの首に巻きつけられた腕にそっと手をやった。


「何が言いたい?」

「…神の誕生日なんて分かるものじゃないのにね。」

「分かっている者も多いだろう。」

「私は、分からないわ。」


そう呟くように言った彼女の視線はとても寂しげだった。

貴族なら知っている誕生日。
彼は貴族中の貴族ゆえ、しっかりとわかっている。

しかし、彼女についていうと、
貧しくはないが決して裕福とも言えない出のため、
正確な誕生日はわからないのである。

普段は家柄とか全く気にしない彼女だから、
寂しそうな表情や、媚びるような態度はとらないのだが、今は違う。

彼女の顔には少なからず影があった。

彼は彼女の腕に掛けていた手を、思わず彼女の頬に添えた。
その頬はすっかり冷えていた。


「だが、誕生日が分かったからどうなるという?」

「さぁね。お貴族出身じゃないっていうのがバレるくらいかしら。」


彼の耳元に口を寄せながら彼女はくすくすと笑った。

全く気にしていないように思わせる口ぶり。
それでも、彼はその気持ちを理解できた。


「そのようなことはお前が気にすることでは無いだろう。」

「白哉がそうさせてくれるのなら、ね?」


彼の耳元で囁くように彼女は言った。
彼女の頬を撫ぜるように動いていた彼の手は止まった。

そのままお互いが動くことなく、数秒が経つと、
彼は徐に口を開いた。


「…私はそのようなことを気にはせぬ。
 ただお前を愛しているだけで良いだろう?」


彼はそっと口付けた。

動くことを忘れていた彼女は
一瞬目を丸くして動けなくなっていたようだったが、
ゆっくりとその顔からは影が消えていった。

たった一瞬の触れるだけの口付け。
でも、彼女は嬉しそうに、そして幸せそうに微笑んだ。





~・後書き・~
クリスマス夢兼第三期拍手お礼夢。
死神も神様の一つなのかなと考えつつ取り入れてみました。
ヒロインは貧しい家の出にしようかなとも思ったのですが、
微妙に緋真さんと被るのもどうかと思ったので曖昧なかたちで。
そこら辺はご想像にお任せと言うことで。
では、ここまでお読み下さりありがとうございました。
     ’07/02/28