人工的で、機械的で、電子的な廊下を
独り分の足音がカツカツと静かに響き渡る。

単調に、まるでロボットか何かであるかのように。


だが、ふいにその歩調は乱される。


シュッというドアの音と共に、ドアの向こうから出てきた人が、
足音の主の袖を後ろからぐっと掴み、ドアの奥へと引きずり込む。

突然のことでその者は反応に遅れた。

抗おうとした時には体に巻きつく――人の腕。

無理に解こうとすれば離れそうではあるが、
それでもしっかりと絡み付いている腕、背中に感じる人。


「……。」


確信付きの確認のような声色。

名前を呼んでも相手は何も言わない。
ただじっと抱きついているだけだ。

彼が次に何と言おうか迷い、ため息を吐いた時、
ようやく背中から声が発せられる。


「降りてたなら連絡くらい入れなさいよ、ラウ。」


言葉も声も、迫力があるはずなのに、
服に口を押し付けているのだろうか、妙にもごもごしている。

彼は思わず苦笑を零した。


「心配したのか?」

「…どうだろうね。」


ふてくされたような言葉に、
彼はプラントに帰ってきたのだと改めて実感した。


プラントに降りてきたのはほんの数時間前。

降りては、連戦の疲れを癒す間もなく、
アスランと共にここ、最高評議会に来た。

そこで先の戦いの報告をして、そして今に至る。

確かに彼女は最高評議会で働いていたが、
まさか会えるとは彼自身思っていなかった。



「プラントに降りてきたのはほんの数時間前で
 連絡する間もなかったのだがな。」

「どうせまたすぐ空に上がるんでしょ?」

「あぁ。明後日にも出る。」

「ふーん…全く、白服はお忙しいですこと。」

「だが…。」


それだけ言って、ふいに彼は言葉を切る。

しばらく彼女は黙っていたが、
続きの言葉が発せられないのを不審に思ったのか
彼に巻きつけていた腕を緩め彼の方を見上げた。

その時、肩越しに見下ろす彼と目が合う。

といっても仮面越しだから目が合った"気がした"というだけだが。


「それはすなわち今日は空いているという事だ。」


彼女の動きは一瞬止まり、
それからその瞳にみるみると明るい光が差し込む。


「じゃあ…、今日は一緒にいていい?」

「だが、仕事が残っているのではなかったかな?」

「………うっ。」


彼女は言いよどんで、しばし考え込んでいた。

それから彼に巻きつけたままだった腕を解いて、距離を取る。


「すぐ終わらせるから、ちょっと待ってて?」


彼女は困ったような表情をしながらも小首を傾げて見せる。

まったく不思議なものだ。
それだけで、意図せず笑みが零れてくる。


「…あぁ。」


それだけで、彼女は満面の笑みを浮かべる。

彼はすっとドアの前からどいて、彼女が通り抜ける場所を作る。

彼女はふっと微笑んで、片手を振りながらドアの向こうへ。
彼も一緒に部屋の外へと出る。



カツ、カツ、と響き渡る靴音。

木霊はとても近くに感じるのに、
彼女の服の裾の揺れるのはどんどん遠ざかっていく。




彼女の腕はしっかりと抱きしめる力を持つ。

彼は自分の掌を見つめ、握りしめ、自嘲をこぼす。



ゆっくりと、彼女の背中へと伸ばし、




つかまえた



…はずなのに、




(彼の後姿はひらりと角を曲がって見えなくなった)





繋ぎとめる術を私は知らない






~・後書き・~
初ラウ夢。とりあえず、甘く、甘くと狙ったのですが…
この人の辞書に甘いと言う言葉はないらしいです。
というか恋人と言う概念すらなさそうな(汗。

     ’08/09/06