「何か欲しいものってある、?」


教授の部屋で宿題をする
リーマスは自分の机から顔を上げて聞いた。


「突然、どうしたんですか?」


それに驚きの表情を隠せないまま
動かしていた羽根ペンを止めて彼の方を見上げた。


「明日、誕生日だったよね。」


彼は再び彼の目の前に広がった羊皮紙の山に目を落として言った。

彼の羽根ペンが走るさらさらと言う音が響いた。


「そういえば・・・覚えててくれたんですね。」

「まぁ、ね。で、何か欲しいものとかある?」


彼はの方を見ながらもう一度同じ質問をした。


「うーん、特にないかな。
 今のままで十分幸せですよ。」


屈託のない笑みを彼に向けてから
手元の本を取り出してそれを開いた。

リーマスは一旦席から離れて
向かい側のソファーに座っていたの隣に腰掛けた。

彼が突然来たことに驚いたのか
は本を広げたまま彼の方を見上げた。


「何でも良いから、ね。」

「そう言われても出てきませんよ。」


苦笑を零しながら答えて本を再び閉じた。

彼が積極的に質問してくる時は
答えを出さずに帰させてもらった例がない。


「…じゃあ、今度の試験の答え。」


けろっと言って彼の方に顔を向けた。

の目の前にはリーマスの顔が広がっていて、
彼女は驚きでそのまま固まってしまった。


「真面目にね。」


彼が満面の笑みを浮かべて言うとの顔からは笑顔が消えた。


「あーっと…。」


何か言わなくては、答えを出さなくてはと考えて
言いよどんでいた。

視線はもちろん、彼の方に向けることなど出来ず、
斜め上辺りを彷徨っていた。

何かが首元に触れたためぱっと視線を真正面に戻した。


「なっ・・・。」


が驚いて口をぱくぱくさせていると
リーマスは彼女の首にかかっていたペンダントを
取ってまじまじと眺めていた。


「そういえば、これ。いつも着けてるよね?」


彼が手にしていたのは小さく、銀色に輝く十字架のペンダント。

は彼の突然の行動で跳ね上がった心臓を
抑えるように深い息を一つした。


「私の母親、キリスト教の熱心な信者で
 …まぁ、私も巻き込まれてってところ。」


じっと手の平のペンダントを眺める彼を
ちらと見ながらそう答えた。


「ふぅん。で、はキリスト教の信者なの?」

「形式上は。でも正直なところ”言葉”なんて
 簡単に信じられるものじゃないですよ。」


ふっと口元を緩めてから、彼の手からペンダントをするりと抜いて
ゆっくりと立ち上がった。


「じゃ、私はこれで失礼します。」


そう言ってその場を速やかに逃げ出した。

彼はソファに座ったままの方を見ている。
そう感じ、ドアの前に立った時、
ドアノブに手を掛けたままくるっと彼の方を向いた。


「ですが…。」


そう言い始めると、彼はじっとこちらを見た。
そして微笑みかけてから言葉を続けた。


「ルーピン先生の言葉は信じていますよ。」


彼は目を見張っていた。

こんな表情が見られるのは珍しいだろう。


「誕生日期待してますから。」


ドアのほうを向いたままそう言った。

そして彼の方を振り返ることなく
その部屋を出て行って階段を逃げるように駆け下りた。

2人は同時に、微かに笑っていた。





~・後書き・~
私の誕生日の時に書いていたものが発掘され、
それに手直しを加えて完成させました。
”言霊”とはちょっと違うのかもしれないですが、
実は「ルーピン先生の言葉だけは~」って台詞を
主人公に言わせたかっただけなのです。

     ’07/07/15